BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

「けちらし」考 

「けちらす」=禅宗修行道場などでミスをすること。
 用例「やっべ~、俺今朝の振鈴(起床の合図のため道場内で大きな鈴の音を鳴らし修行僧を目覚めさせること、またその役目)けちらしちゃったよ」
f友Akiさんのタイムラインからいただいてきましたこの言葉。ギョーカイ各位にはおなじみですが、どのへんにルーツがあるのでしょうね。
 一般的な辞書類ではわからないようですが、もしや、とおもう仮説をひとつ。
 文字通りには「蹴散らす」、足でモノを散乱させる、ということでしょうが、これが「失敗する」「忘れる」という意味に用いられているのが禅宗叢林。
 この「蹴散らす」という言葉、それなりに古くてすでに室町時代にはあって、『日葡辞書』に、「けちらかす」と「けちらす」という語が収録されている。ただここでは「足で物を散乱させる」という解説がされてあり、直接に叢林用語の意味にはあてはまらない。
 だが十六世紀前半に生きた証如上人(真宗僧)の『証如上人日記』の天文10年2月8日の条に、ある約束事を反故にしたことに触れて「今と成りてかやうに申してけちらかし候て帰り候はんとの申すこと、何とも心得難く候」という例がある。『時代別国語大辞典・室町時代編』は、この用例をもって、「けちらかす」の意味の第三番目に、「契約したことなどを自分勝手に破棄する」と記している。これを出典が真宗のものだから真宗起源だなどと解釈するのはやや浅はかで、この時代にこの用例があったと広く捉えてよいと思う。「約束の反故」→「決めごとの不履行」→「失敗」、という転化はあり得なくもなさそうに思う。
 で、この時代、いわば室町期は臨済・曹洞ともに教団の発展期にあった。そのことは、修行道場における集団生活が盛んに行われていた時期でもあった。そのあたりにルーツがあるのじゃないだろうか。