BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

「お盆」十題 その4 “お盆とお盆”

 年中行事や仏教関係の印刷物、あるいはネットなどで行われている「お盆」「盂蘭盆」の解説は、いずれも似たり寄ったり。盂蘭盆とはもと梵語ウランバーナという言葉がもとになったもの、その意味は倒懸(逆さ吊り)の苦という・・、という内容。「倒懸の苦」についてちょっとググればたくさんの説明がなされているので、ここではスルーして・・。
 ここで問題にしたいのは「盆」のこと。ものを載せる(容れる)器としてのお盆。これまたれっきとした漢語で歴史は古い。盂蘭盆の「盆」にこの意味はないのか。たんにウランバーナの「バーナ」の音に似通った漢字を充てただけで、本来の器としての「お盆」という意味は無視されているのだろうか。

 『翻訳名義集』という中国版仏教語辞書の「盂蘭盆」の項目に次のようにある。「盂蘭盆。盂蘭とは西域の語の転(化)なり。ここには倒懸と翻(訳)する。盆とは、これこの方(中国)の貯食の器なり」。つまり「盂蘭盆」とは、「盂蘭+盆」=「倒懸苦+器」ということ。もう少し読んでいくと、これが倒懸の苦を救うための供物を載せるお盆のことを言っていることがわかる。

 ということは「盂蘭盆」をめぐって、次の二つの解釈があるということになる。
 1)盂蘭盆ウランバーナ(倒懸)
 2)盂蘭盆ウランバーナ(倒懸)+お盆(器)

 ここに『織田仏教辞典』という辞書がある。大正6年刊行の古いものだけどなかなか鋭いところがある。で、これの「盂蘭盆」の項目。三つの文献を用例に挙げている。順に挙げれば次の通り。
 ①玄応編『一切経音義』  「盂蘭盆とは、倒懸のことである」
 ②宗密撰『盂蘭盆経疏』  「盂蘭盆とは、倒懸の苦しみを救うための百味を載せる盆(器)のことである」
 続く第三例で、この①と②の両方を踏まえた上で、次のように述べている。
 ③元正撰『盂蘭盆経疏新記』 「①の場合は、〈盂蘭盆〉の三文字とも梵語だというのであって、②の場合は〈盂蘭〉が梵語で、〈盆〉が器を意味する漢語だというのである。どちらが正しいとも言い難いので、それぞれ人によって意味を取るのがよい」(後段の原文:疑故両存、随人去取)

 そんなわけで『織田仏教辞典』は、「盂蘭盆」について二通りの解釈を併記して、さらにそれについてのコメントも文献資料に語らせて判断は読者にゆだねている。
 さて、ゆだねられた私たちはどうしよう。最初に紹介したように現行の説明はほとんど1)だけど、2)もなかなか捨てがたく思うのだけど。

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