「お盆」十題 その5 “迎え火”
今日、ある老僧が亡くなった。
九十四歳。親しくさせてもらった、好きな老僧だった。
お寺の下働きをして大きくなり、軍役に従事し、厳格で知られる僧堂で鍛えられ、新地建立した寺院の三代目となった。そんな苦労話や自慢話は誰も聞いたことがない。
細工物に器用で、仏画も巧み、こつこつお金貯めては求めていたミニチュアSLのコレクションは玄人はだし。そんな苦労話や自慢話は誰も聞いたことがない。
他人の批判はしない、息子より年下の私にも腰が低く、晩年に通っていたデイサービスセンターではいつも明るい笑顔の人気者。そんな老僧の人柄なら誰でも知っている。
あの世から来る人を迎えるためにこの世で焚くのが迎え火だと思っていた。
あの世に迎えられる人の火も、迎え火というのだろうか。