よこみち【真読】 №2 R18指定 「庚申」と五右衛門
庚申信仰の件、民俗史料の詮索好きな方には興味尽きない所だろうが、
かたやもう少し別の方向に詮索好きな方々にも興趣あふれる話題だろう。
天帝の特命により我々の身体に潜むにっくき三匹のスパイ「三尸蟲」。
こいつらの体外脱出を阻もうと始まった庚申の夜の精進潔斎による完徹修行。いつしか「精進潔斎」にオヒレハヒレがたんと増え、さらには一般庶民という名の野次馬連の関心に応えまことしやかに「伝承」化されたのが同衾のタブーである・・・と思う。
言うまでもなく、なぜ同衾がいけないのかというと、精進潔斎のいましめに抵触するからに外ならない。もっとも60日に一回の庚申の日だから、これをタブーというほどの禁欲と受けとめるかどうかは人それぞれだと思う。
「庚申も夜も日もない若ざかり」
そんな頃もあったかなと思わず知らず遠いまなざしになったりする。
こうしたよそさまの閨事にまつわるあれこれほど世の人々を悦ばせる話題はないと見えて、川柳にはこのネタが多い。
「今日庚申と姑いらぬ世話」 うわ、今でもありそう
「もうよかろうと庚申の夜明け方」 朝のおつとめは健康にもよいと聞くが
「庚申の夜は持ちのよい嫁の髪」 ほつれ髪の色っぽさってそういうことだったんですね
「庚申をあくる日聞いて嫁こまり」 いたしちゃったんですね
それではこのお嫁さんのように、ついコトにおよんでしまい、それがもとで子供が授かっちゃった場合はどうなるか。
これが大変らしい、その子は成長すると大悪人になるとか。ちゃんと歴史上の実例が用意されている。戦国期の石川さんというご夫婦がそのいたしちゃったお二人だ。生まれた子は大きくなって石川五右衛門という稀代の大悪党として名を馳せる。伝えられる川柳がこれ。
「五右衛門の親は庚申の夜を忘れ」
なかなかゆかしいことであるようなそうでないような。
我らがルパン三世の一味、ご存じ「五ェ衛門」は、石川五右衛門から数えて十三代目の子孫という設定。
あの文字通り快刀乱麻の活躍ぶりから察するに、ご先祖のDNAは間違いなく注ぎ込まれている。はっ!と言うことは、十三代五ェ衛門のご両親ももしや庚申の夜を待って、いやその夜を狙って子作りにいそしんだのではないか。そして、はたして二代目から十二代目までの中をつなぐご先祖たちの足跡はいま一つ解らないが、もしも代々悪党の血脈を維持してきたとすれば、その代々のパパママたちは、みな庚申の夜に同衾のタブーを侵してきたということになるではないか。なんという戦略的出産計画。なんという悪漢創造の系譜であろうか。
このような庚申信仰の実例を目の当たりにして、慄然とした思いにかられるのはおそらく私一人ではあるまい。ふるえる手を抑えつつ、ひとまず筆を置くことにしよう。
また、つまらぬものを書いてしまった。