よこみち【真読】 №9 「あらけなき神々」
私の住む秋田県北部の山里には、いまでも「あらげない」という言葉が残っている。
用例:「このおやじだば、酒飲めばあらげねくて困ったもんだ!」
訳(このおやじは、酒を飲むと乱暴になって困ったものだ!)
残っている、という言い方をするのはこれが古語だからだ。
『日本国語大辞典』によると、このように「あらけない」が「荒々しい・乱暴な」を意味する方言は、秋田県のほか、青森県、岩手県、富山県、石川県、岐阜県、滋賀県、京都府、大阪府、鳥取県、高知県、福岡県の例が挙げられている。さらにちょっとググってみても愛知などよその例も見える。かなり広範囲に分布しているらしい。
本編で言うところの「荒ぶる神さま」、その祖型とも言えるヒーロー(ヒール?)は記紀に登場するスサノヲノミコトだろう。
その乱暴狼藉、しかも蛮行の下品なること。ほかの「荒ぶる神々」のモデルでもある。気に入らないと泣きわめく、ものは壊す、うん × はする。ほしければ人のものでも女でもどんどんひったくる。日本神話に登場する神々のご乱行ぶりまるで赤ん坊のようだ。もっとも、この「赤ん坊のよう」というところがご愛敬で、どん引きするほど悪辣に思うことが少ないのは、中国やヨーロッパの場合とはちょっと違うような気がする。
そんな〈凄まじい暴虐〉の要素をキャラクター化したこんなヒーローもいましたね。
しかし一方的に悪逆の限りを尽くすだけではなく、ヤマタノオヲロチ退治に見られるように、しっかりと善玉の顔も持っていた。
こうした善と悪の両義的存在としても、スサノヲは後世の「荒ぶる神々」のモデルだったと思う。そしてこうした善玉的側面をもっていたからこそ神として崇められる。スサノヲファンの少なくないゆえんだね。
両義的と言えば、「崇める」と「祟る」はよく似ている。
「祟」の字解をみると、神が人を警めるために出し下す禍を表すのだという。ま、それが正当な警告的意味合いを持っているならば、という話だ。神話の中では、いじけた子どもの八つ当たりみたいな蛮行まで「神の仕業」として神聖化されているのはどうもいただけない。
冒頭にご紹介した酒ぐせの悪い「あらげないおやじ」も、ふだんの素行がいくらよくても、そのあらげなさゆえに「崇め」られたりはしないもんな。
う、物言えばくちびる寒し・・という展開になってきた。これでやめとこ。