よこみち【真読】 №16 「呪術と公行政」
まじない&行政法令。おかしな取り合わせだ。
長&短のように両極の関係でもない。
男&女のように対偶の関係でもない。
トム&ジェリーのように愛憎半ばする関係でもない。
まったく関係のないジャンルに属する二つがなぜか分かちがたく結びついている。それが「急急如律令」(※ほんとは(口+急)の文字を使う例が多いが、表記が煩わしいので「急」にさせてもらう)だと思う。
ここにあげたのは越後修験道に伝わる飯縄流符呪のひとつ「験者託之大事」。文末にちゃんと「急急如律令」と記されている。
今回、本編のfbアップ時から宮城県の吉田俊英さんから古代の呪符木簡の事例が寄せられ、秋田県の佐藤善廣さんからはキョンシーの情報が寄せられ、山形県の小野卓也さんから地獄の官吏の情報が寄せられた。
なんとうれしいSNSの恩恵。今回はR18系じゃないので食いつき悪いかなと予想してたけど、みなさんなんでもいけるのね(笑)
お三方のお知らせでありがたかったのは、やはりこの言葉、中国経由なのかということが予想できるところ。道教関係に詳しい先生たちがいろいろ調べているけど、護身法や、なにかの法令文の最後はこの言葉でしめることがままあるとか。
画像のたぐいは越後に限らず各地の修験道符呪類によく見られる。活字資料も少ないがここでは臨場感のあるものを載せたまで。日本修験道への伝播もやはり道教経由を思わせる。
本編では俗書だけじゃなくて『毘沙門儀軌』にもあるぞ、と言っていたけどこれも逆輸入の可能性あるかもしれない。
じつはかつて調べていた曹洞宗の「室内切紙」という秘伝書の中にもこれ書いたのあったなと思って手元まわりをひっくり返していたけどすぐには出てこなかった。でも確かにあったと思う。他宗の例には詳しくないのでよく解らない。もしなにかあったら教えてください。
でもそれなりの浸透度だな、と察することは出来そうだ。
さて関心のポイントはどこかというと冒頭に記したとおりで、律令というまったく政治レベルの言葉が、呪術の効験を証明する語として用いられているというこのギャップ感。
これがたとえば
急急なること「疾風」の如し
急急なること「ダチョウ」の如し
急急なること「借金取りの催促」の如し
等、つまり自然現象や見聞で知っている特定の動物行動や生活経験の中でえていた情報であればなるほどと思うのだが、「律令」てのはどうでしょうね。これって、
「消費税導入」の如し
「青少年健全育成条例施行」の如し
「個人情報保護法施行」の如し
と言っているのとほぼ同じってことでしょう?
あれ?
こうやって実際の法令・条例に置き換えてみるとたしかに「昨日までこうだったのに、今日からはもうこうやんなくちゃだめかあ!」的なイメージは伝わるかな。
小野さんからいただいたコメントもなんとなくこの辺の事情を匂わせる。
てことは呪術祈祷のキキメも、お上のキメゴトには及ばないってことになりはしないか。本編アップのキャッチコピーに「トップダウン」という表現を使ったのはそんなところからだった。
〈まじない&行政法令〉というところについ感じてしまったギャップ感も、もとをたたせばけっこう俗っぽいところで通じていたのかもしれない。