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BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

よこみち【真読】№43 「金襴ときりたんぽ」

 近頃、自宅で会葬者を招き葬儀を行うという家が、ぐんと少なくなった。幸い田舎の地域なので街場の葬祭ホールで行う例はまだ少なく、8割以上はお寺のご本堂で行う。年忌のご法事の場合は、まだ自宅で行う場合もそこそこあるが、以前よりはやはり減った。

 自宅で葬儀・法事を行う場合、それなりに整ったやり方というと、家の座敷の床の間側に「ガンギ」と呼ぶ組み立て式の祭壇をしつらえる。かつてはたいがいの家に用意してあったが、今では「家を建て替えたら座敷が狭くなったんで、もうこの家でお客さん呼ぶ法事はやらない。ガンギも古い家と一緒に処分した」などと言って、ガンギのない家も珍しくない。そんな時は同じ集落内のご本家やつきあいのある旧家などから借りてくる。

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 およそ五段~七段くらいあるだろうか。言ってみれば雛飾りのひな壇様のものだ。その木製のガンギに「打敷」を懸けて祭壇とする。
 打敷のようすも似たり寄ったりだが、微妙な違いがあるらしく、法事に集まった人びとの間でいろいろ取りざたされている。「うちの本家から借りてきた打敷はやっぱり立派だ」「この打敷は舅祖父さんが亡くなった時、子供たち兄弟がみんなで寄付してくれたものだ」「他の家の打敷はみんな赤地だと思っていたが、ここの家は珍しいな。紺色の地だ」etc.
 お斎が始まると、祭壇を背にして一番上座が住職の席。今から三〇年ほど前は仕出しの料理もあるにはあったが、それよりも施主家の女性陣が用意してくれた手料理が豪華だった。山菜の煮染めや色とりどりの漬け物。そしてどこの家でも必ず用意していたのがきりたんぽ鍋だった。

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 うちの地域ではおもてなし用のごちそうと言えばこれが定番。

 きりたんぽのお米は自家製。山菜・キノコは近くの沢山から。そして鶏肉も自前であった。その頃、どこの家でもニワトリを飼っていて、なにか「人寄せごと」があると、気の毒ながら一羽ずつ「召されて」ゆくのが鶏たちの宿命だった。「お前ンとこのニワトリ、肥えでいて美味いな」「なんだこれ年寄りでねえか、かなりしねえ(硬い)ど」などと客人の批評もにぎやかだった。

 さらには施主家の支度した料理ばかりでなく、招かれた女性客たちもそれぞれ重箱を持ち寄って自慢の手料理がお斎の場に供された。

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 そのうちに家主が大きな瓶を持ってくる。これまた自家製のどぶろく

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 さっきまでの仏事の場に、次第に饗宴の空気があふれてくる。

 こうした法要が少なくなってもう久しい。

 たまたま今、かたわらで『地方消滅の罠』という本を読んでいた。

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 祭壇打敷の金襴ときりたんぽ。この地域から失くしたくないものである。