BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

よこみち【真読】№61「人口増加の問題点」

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「ののさま。あのしゃなんし、おら、嫁さ来た時、しゅうとさまがらしかっと教わったごどあってなんし、それはし、家の仏さまのたち日来たらなんし、必ず忘れねでお膳ここへで上げれって教わったものなんし。しだがら今までおらの息子さ嫁っこもうらうようになってもなんし、お膳こだけだばおら作らねばなねど思って、毎かたき上げてらいったものなんし。したばって今日教えてもらいてごどはなんし、どしてもこれ毎かたき毎かたき上げねばなねものだベがなんし」。
 と、檀家さんのご婦人(70歳代)からの相談を受けた。念のために要旨を訳すれば、「嫁に来て以来、姑の言いつけを守って、家の仏の忌日には毎回お膳を上げてきたが、これからも必ず毎回続けなければならないのだろうか」というのである。
 なぜそれを問うのかと訊ねたところ、
「あえー、おらの家だっけしよ、まず一日だしべ、そして二日がなくて、こんだ三日、四日、五日、六日と4日も続いて、こんだ八日で、ほして十日と十一日と(中略)、こやって勘定へばみんなで一月に十八回も上げてらいたごったい。ほして去年がらは姑さまも亡ぐなったたいに、それからは十九回も上げてらったしよ。これまだ死んだ人できれば二十回なって二十一回なって、そのうち毎日毎かたぎ上げねばなねぐなるしべ。おらの代だばいいどしても、嫁の代なったらなんとなるべがと思って」
と言う。
 なるほどご先祖の数だけ忌日があるかということなわけだ。聞いてみたらほんとのご先祖の人数は24人だという。ただ忌日が同じご先祖が何人かいるので現在のところ、月に十九回というわけだった。たしかにお仏膳となれば精進ものを用意しなくちゃという気になるだろうし、だとすれば育ち盛りの孫や働き盛りの若い者がいる場合、肉や魚料理を食べさせたい時は、料理の品数も増えるわけで、このばあちゃんが音を上げたくなる気持ちは充分にわかる。
 こんな時に、「ご先祖なんてずっとさかのぼっていけばとんでもない数に昇るんだよ。それこそ毎日が忌日なんだから、あんまり気にせず、どこか月に二~三回を代表の日に決めてしまえばいいんじゃない」と勧めてもなかなか納得しない。
 で、答えているのはこんなこと。
 「ばあさん、それだばたいしたもんだな。そんたにていねいに上げでもらったらご先祖様方なんぼありがてがわがらねな。んでもほどんと毎日だば大変だがら、こんだがらこうしたらどうだしかな。まず、毎月お膳こ上げる人は、嫁なってきたどきがら世話になった、おじいさんとおばあさん、それさおどさんどおがさんという四人だけに決めればいぐねがな。そしてたくさんいる昔のご先祖方はどうへばいがってば、その人死んだ月のたち日にあげることにへばいいのよ。たとえば九月七日に死んだ人は、毎月七日に上げるのでねくて、ほんとの九月七日来た時だけ上げるのよ。そうへば年に一回だしべ。こうへば毎月上げるのは、おやしゅうとの二人ど、じいさまばあさま方二人の合わせて四回だ。それさ年に二十回のご先祖の人がただがら、まんず月々に違うべども、少ねば四回、多くてもせいぜい七~八回のもんでねがな。こうしたらいぐねしか」と。

 先代住職からの方針で、うちの檀家さんは在家過去帳を備えているところが珍しくない。それも僻村の集落ではあるけれど、江戸中期ぐらいから続いている家が多く、一軒の過去帳に載せる名前が二十人、三十人を超える場合もしばしばある。
 過疎の集落、生きている人は少なくなる一方で困りものだが、過去帳に記載されてゆくご先祖たちは増える一方なのである。