よこみち【真読】№85「山の力」
今ではこういうステレオタイプな見方はもう古いのかもしれないけど・・
成立宗教と自然宗教、みたいな対比が話題になることがある。前者は哲学的だったり論理的だったり、後者はアニミスティックだったりと。こんなふうに両者を対照的に捉える考え方ってけっこう浸透していると思う。だからまっとうな成立宗教であるはずの仏教の中に、アニミズム的要素は少ないはずだ、という観測を持っている人もそれなりにいるはずだ。
だから今回の本編のように、がっちりと自然崇拝をベースにした仏教の文献に出逢うと、驚いたり、あるいは私のように嬉しくなったりする。これって、掛け値なしに「やっぱり山はいいよなあ、山は!」と言っているのとほぼ同じことなのだ。
山中修行を行者として錬成してゆく過程の主要な体験として据えている修験道はもちろんだけど、本編に登場するような仏教文献に〈山〉礼讃の文章が出てくるのは小気味よい。仏教といえど所詮は人間の営み。こうした人間のごく素朴な心情と仏教との接点に配慮が効いているのも、ただのウンチク本ではない『真俗仏事編』の魅力のように思う。