よこみち【真読】 №3 鬼と「うしとら」
鬼門ということで、軽めの話題をひとつ。
人気コミック『うしおととら』、略して「うしとら」。この作者、ちゃんといろんなこと踏まえてストーリーとキャラクターを設定しているんですね。
うしとらとは「丑&寅」=「艮」。
つまり東北に住まうもの、あるいは東北より来たるもの、としてちゃんと「鬼」の属性〈異界より来たる尋常ならざる破壊力を持つ魔物〉を具えた設定になっている。
この鬼門の方位に対する考え方は、かなり古く、そしてそれぞれの時代の文化の深層にまで行き渡っている。
京の都の鬼門を守るために建てられた比叡山延暦寺とか、江戸の鬼門は寛永寺だとか。それぞれの集住空間を構成する際、たんに地の利・水の利だけではなく、異世界との交流をどのように折り合いつけて行くか、ということも都市計画の重要な要素だったんですね。
そのあたりうまくエンターティメントにした一例が『帝都物語』でした。
ま、話があんまりそっちへゆくと帰ってこれなくなるので「うしとら」にもどりましょう。
「うしとら」=「鬼の方角」ということから生まれたのが、あの伝統的な鬼のスタイル。
ね。頭には「ウシの角」、パンツは「トラの毛皮」。これが鬼の正統派。
だから
こんなのはペケなわけです。
新しい要素は盛り込んでも、ちゃんと外しちゃいけないところは外しちゃいけない。
そうそう、これならオッケー。
で、もうちょっと「うしとら」まいりましょう。
この鬼に対抗できる勢力は方角的には真反対の「裏鬼門」。そして鬼に対抗できるわれらが伝統的ヒーローと言えばなんと言ってもかの鬼退治のヒーロー「桃太郎!」。
ここで、本題の『真俗仏事編』で紹介されていた話を思い出してみよう。鬼門にあったのは大桃の樹だった。そこでは神荼と鬱塁という二人の鬼神がいて、そこにやって来る悪い鬼たちを引っ捕らえては虎のエサにしてしまうというところだった。つまり鬼と桃とは逆対象の属性にある。お寺さんであれば、施餓鬼棚には桃を供えないという話を聞いたことがあると思うけど、その由来はこのあたりにある。
そしてもう一つ、これはけっこう知られている話だけど、陰陽五行で桃を見た場合、桃は木・火・土・金・水と五つに配当される五行のうち「金」に当たる。だから桃から生まれた時点で、この男の子は将来鬼ヶ島で鬼退治を成し遂げ、「金銀財宝」をせしめることが運命づけられていた。
でもって、裏鬼門である「未申」の方角から、こんどはこれを時計に見立てて時系列におってゆくと、そこに配当されているのは、サル・トリ・イヌ。ほら、この絵本の表紙にもちゃんと描かれている。サル・キジ・イヌ!
つまり鬼への対抗勢力としては、最強のメンツだったというわけです。
あ、するとあれも・・とお気づきの方も多いはず。そう、現代ニッポンを代表する次の三人のヒーローも、海賊という名の鬼退治を命じられた最強メンバーだったのですね。
こっちの方は、当初のメンバーの入れ替えやら生じてきて、予断を許せない状況。もっともこの三人についてはまだまだ詳しいみなさんがおいででしょうから、ひとまず「よこみち」はここまで。