BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

よこみち【真読】 №22 「消臭・・・ですか。」

「お香を供える」ということをはじめとして、こうした仏事の故事来歴に対して、私たちはある期待をもってその答えに臨んでいるように思う。それは多分に予定調和的で、多くの人達に拍手と共感を持って迎えられることを望まれているものでもある。
 もう少し平たい言い方をすれば、その故事来歴なる「理由」を知った時に、「そうだったのか、やはりすらばらしい由来があったのですね」と得心される、〈それらしい答え〉を期待している、ということだ。
 だから用意された答えが、いくらほんとうの事実に基づいていたとしても、みんなに賞めてもらえるような「すばらしさ」を備えたものでないと、「え~、なにそれ」と不評を買うことがある、と思う。注:この種の由来のことをここでは便宜上〈サゲ由〉とよぶことにする。
 一方、実際にはそんなことはなかったとしても、みんなの称賛を得られるような(予定調和的答え〉をこしらえることができれば、それが新たな故事来歴としての地位を獲得して、一人歩きしてゆくこともある、と思う。この種の由来のことをここでは便宜上〈アゲ由〉とよぶことにする。
 これを「でっち上げ」と評するのはいささか酷で、多くの場合は「再解釈」とか「新たな意味づけ」と好意的に受けとめられる場合が一般的だと思う。
 今回、本編「香」を読んで感じたのはそういうことだった。
 ここには香に関する3つのエピソードがそれぞれの出典で紹介されている。
 a 前世の香供養の功徳によって現世に福を得た話 by『百縁経』
 b 人間は臭いので消臭のために用いる by『感通伝』
 c 香によって信心を発した話 by『僧史略』
 これを読んで、a、cはともかく、bには「え~」と思った人が少なくなかったのではないだろうか。香を焚くのは消臭剤代わりってことだよ。

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 さきほどの定義でいえば、a・cは〈アゲ由〉、bは〈サゲ由〉ということになるだろうか。
 たしか払子の由来にも似たようなことがあって、もとはアブやハエを追い払うためのものだというのが〈サゲ由〉、いやこれはお釈迦様の螺髪だというのが〈アゲ由〉ということになるだろう。
 この二つ、まだ用語としてはこなれていないが、仏事の来歴を考える場合に有効な考えじゃないかと思っている。まだ必ずしも〈サゲ由〉の方が〈アゲ由〉に先行してあるとは一概に言えないけれど、往々にして〈アゲ由〉は時代の空気を読みながら後から作られて行くような印象がある。
 そう考えると〈サゲ由〉と言ってしまったけれど、決してマイナスのイメージを持ったものということじゃなくて、ごく素朴に、さほどアゲアゲの意味づけを強調しないもの、というあたりが〈サゲ由〉の特徴かも知れない。
 そして〈アゲ由〉の方は、作り事とはいうものの、上手に空気を読んでいればだんだんとステイタスを確保していって、新たな「故事来歴」に取って代わるという場合もある。

 仏事の来歴って、この二つの間を行ったり来たりしながら生み出されてゆくものじゃないかなあ。