BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

ジョン・W・ダワー『容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別』(訳 斎藤元一)平凡社ライブラリー、200112、平凡社

同著者の『敗北を抱きしめて』に出逢い、著者の本をあさったうちの一つ。

1987年刊行の『人種偏見 太平洋戦争に見る日米摩擦の底流』(同訳者、TBSブリタニカ)の平凡社ライブラリーとある。

原題は War without Mercy : Race and Powe in the Pacific War,1986

 

 『敗北を抱きしめて』では、驚くほどの多くの資料を駆使して多角的な視点から戦後日本社会の心性を明らかにしてゆく手腕に魅了された。

 本著も日米双方の視点から、対立国に対する憎悪の感情がどのように形成され受容されてきたのかを明らかにしている。

 

 第Ⅰ部 敵

第1章 人種戦争のパターン

 第2次世界大戦が意味するもの

 汎アジア主義の台頭

 敵イメージの変遷

 アジアにおける容赦なき戦い

第2章 「汝の敵を知れ」

 フランク・キャプラのプロパガンダ映画

 敵国日本のイメージ 

 日本のプロパガンダ文書

 3つのステレオタイプ

 正反対の他者

 他者イメージとセルフイメージの一致

第3章 戦争憎悪と戦争犯罪

 日本人がナチスより凶暴とされたのはなぜか

 真珠湾攻撃の衝撃

 無差別爆撃への避難

 連合軍による無差別爆撃

 日本軍がまき散らした死と憎悪

 自国民にまで及んだ殺戮

 強制労働への動員

 捕虜の虐待

 日本人絶滅政策

 無条件降伏の要求

 日本による仮想戦犯裁判

 「助命なし、降伏なし」

 身の毛のよだつ戦利品

 「やるかやられるか」の悪循環

 日本兵はなぜ降伏しなかったのか

 リンドバーグが見たもの

 プレーミー将軍流の見方

 歴史から学ばなかったこと

 

 第Ⅱ部 欧米人から見た戦争

第4章 猿その他

 「良きジャップは死んだジャップ」

 日系アメリカ人の強制収容

 ジャップ・ニップ・動物

 猿のイメージ

 比喩としての「狩り」

 害虫駆除

第5章 劣等人と超人

 ユニークで不可解な国

 取るに足りない文化

 日本の過小評価

 日本軍の「四つの弱点」

 特殊な精神構造

 評価の逆転

 超人の登場

第6章 原始人・子供・狂人

 アカデミズムの動員

 国民性研究

 用語の偏向

 ジェフリー・ゴーラーの分析

 幼児期のトラウマ

 フロイト派の解釈

 ニューヨーク会議

 「集団的神経症」

 無視された心理戦キャンペーン計画

 天皇制の活用

 原始性

 幼児性

 異常性

第7章 イエロー・レッド・ブラックマン

 人種用語の系譜

 黒人とインディアン

 フィリピンの征服

 科学的人種主義

 中国人との出会い

 黄禍論

 大衆文学に現れた東洋人

 黄禍論への警鐘

 反東洋の人種用語

 差別的な移民法

 中国移民の排斥

 同盟国中国の処遇

 人種戦争の予感

 黒人問題との連携

 白人至上主義の終焉

 

 第Ⅲ部 日本人から見た戦争

第8章 純粋な自己

 セルフイメージへの没頭

 白と赤のイメージ

 歌とスローガンに現れた自己

 清浄さの起源

 進化論の容認

 『国体の本義』

 禊としての戦争

 日常生活における浄化

 究極の浄化ー自己犠牲

第9章 鬼のような他者

 身内とヨソ者

 「南蛮人」との出会い

 様々な動物イメージ

 ケダモノ

 鬼の登場

 「鬼畜米英」

 両義的な存在としての鬼

 「桃太郎パラダイム

 アニメに描かれた桃太郎

 「新生日本」の象徴

 人間の顔をした鬼

 反ユダヤ主義・反キリスト教

 敵に対する無知

第10章 「大和民族を中核とする世界政策」

 一九八一年に発見された文書

 大東亜共栄圏プログラム

 「其の所」

 人種と民民族の区別

 日本人の優越感

 日本人の量的拡大

 共栄圏拡大の諸段階

 海外移住計画

 家族イデオロギー

 アジア人の反撥

 経済政策

 

 第Ⅳ部 エピローグ

第11章 戦争から平和へ

 第2次世界大戦の犠牲者

 戦争の最後の年

 ステレオタイプの逆転

 天皇制の戦後への適応

 冷戦のレトリック

 経済戦争のレトリック

 

 両国それぞれのプロパガンダ構築とその影響を巷間のポスターやマンガ、映画などを切り口に、追跡し、お互いの「憎しみ」「怖れ」「嫌忌」などの感情がいかに生成され、展開してゆくかを論じている。

 その論旨展開の力強さに、圧倒的されつつ著者の称賛者になった。