BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

久我尚寛師関係資料の意義 その2

1【 梅花流「お誓い」以前 

 

 「お誓い」の成立については、昭和27年の佐々木内局による「正法日本建設運動」がその背景となっていることを数回に分けて述べた。

 http://ryusen301.hatenablog.com/entry/2015/02/12/134439

 その考えに今のところ変更はないが、今回の調査によって、それ以外にも「お誓い」に通じるような〈信条・心得〉成作の形跡を知ることが出来た。

 詠讃歌講の、その流派の基本的なスタンスをわかりやすい言葉で示した標語にあたるものは他流でもあるようで、例えば「龍拈寺資料」(以後、龍拈寺所蔵の久我尚寛師および梅花流関連資料をこう呼ぶ)中に、「金剛講」のものがある。

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「(朱筆)金剛講
 三信条
一、大師の誓願に頼り二世の信心を決定すべし
一、四恩十善の教を奉じ人の人たる道を守るべし
一、因果応報の道理を信じ異端邪説に惑ふべからず
 五綱目
一、凡聖不二の理を悟りて佛性を開顕すべし
一、即時而真の教を奉じて三密の修行をなすべし
一、人各々佛性有り相互に禮拝すべし
一、報恩歓喜の念を以て相互に供養すべし
一、大師の誓願を体して社会浄化に努むべし」

 おそらくはこうした先行他流のものを参照しながら、曹洞宗梅花流の〈信条〉を模索したのではないだろうか。そしていくつかの草案が作られることになったのだろう。その一つと思われるのが次である。

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「梅花流師範の心得(信条) 藤川案

一、我が宗門の宗旨に依遵し佛菩薩の慈恩を昂揚して詠讃歌を奉唱し自信教人信の範を示しましょう
一、師範相互の親睦和合を密にし一般会員の資質向上につとめましょう
一、私共師範は三根成就を理念実行し相互研究向上を企画して近代化に合流するようにいたしませう
一、外に威厳を保持し内に低姿勢を養いましょう
一、相互に毀他を慎み一般会員の奉唱上の拙劣を軽笑しないようにいたしましょう

  ○三根成就
   口で詠讃歌を奉唱
   心で佛菩薩を念じ
   身で礼拝合掌」

 今には伝えられていないこの「案」が以上のような状況で作られたものであることは想像に難くないだろう。「藤川」師とは今のところ未詳である。

 二つめには次の例もある。

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「 師範の信条 丹羽廉芳草案
一、自ら当流師範たることに誇りを持つ。
二、自ら当流師範たることに感謝する。
三、自ら当流師範として研鑽に勵む。
四、自ら当流師範として講員を吾が子とし、親切第一に丹精指導し、斯道の奥義を了得せしむ、
五、自ら当流師範として互に乳水和合し、一心同体親密に現身演法を旨とすること。
 講員の信条 丹羽廉芳草案
一、梅花講員たることに誇りを持つ。
二、梅花講員たることに感謝する。
三、梅花講員たるものは専心詠道に精進してその真髄を了得せんと心に誓う。
四、梅花講員たるものは自他の邪念を去り清浄の佛心に住して行持する。
五、梅花講員は各々自己の人格を磨き家庭を和らげ社会国家の善に少しでも益をなすことに志ざす。」

 これもまた今に伝えられていないものだが故丹羽師(永平寺禅師)の草案である。

 これらの選定経緯はわからないが、いずれにしても現在の「お誓い」成立に到る「模索・試行」の段階を窺わせる好資料と言える。