BON's diary

「何考えてんだ、お前はっ!」 「い、いろんなこと」

【真読】 №129「蚕衣ならびに金襴衣」 巻六〈雑記部之余〉(『和漢真俗仏事編』web読書会)

 字書に蚕は蠶と通用す。
 問う、律に拠れば布の袈裟を如法とす。蚕衣の袈裟を用ふるは非法なるか。 答て曰く、道宣律師は蚕衣を制したまい、義浄三蔵は蚕衣を大乗の了義なりとして開したまう。今略してこれを弁ぜん。
 南山道宣律師、天人に蚕衣を如法なるかと問いたまふに、天人の曰く(感通伝)、「蚕衣には殺生の咎あり。いづくんぞ殺生の財を以て慈悲の服とせん」と告げけり。ここにおいて道宣律師の曰く、「『智度論』に、仏、麁布の伽梨(がり・袈裟のこと)を着したまう、とあるを以て見れば、益々麤布の衣を以て如法とすべし。蚕衣はたとい卧具にも用いず。また西来の梵僧を見るに、みな布氈を着せり。梵僧に問えば、〈五天竺国に蚕衣を着することなし〉と云へり。これによって『章服儀』を著し、蚕衣を制して布衣を如法とす」と。
 しかるに義浄三蔵の説(南海寄帰伝)に拠れば、今の氈布に限るを返って小乗有部の偏執なりと誹(そし)り、蚕衣を大乗の了義にかなへりとす。
 義浄三蔵は諸家の崇ぶ所、しからば蚕衣を非法とすべからず。(已上は『資持記』の取意なり。また『南海寄帰伝』二の三葉より四葉を披(ひら)け)
 ○ちなみに問う、金襴の袈裟も義浄の開したまふ蚕衣と同物か。
 答えて曰く、按ずるに同物なれども、また些かの料簡あるべし。金襴衣は果上の薩埵の浄妙の荘厳衣なり。その証文を出さば『不空羂索経』二十九の供養品に「諸天、観音を供養するに不可説の金縷袈裟・衣服の海雲を雨ふらす」と云へり(金縷の袈裟、すなわち金襴の袈裟なり)。しかれば金襴衣は中にも最勝なるを以て、なお大乗の了義とすべし。況んや殊に密宗には初発心に曼荼羅に入って,潅頂を受け、すでに果徳を得たり。果上荘厳の衣を受用することもっともかなへり。